更新プログラムがインストールされています

Windows XPService Pack 3がリリースされたのでインストールしてみた。インストール(更新)の途中、ふとメッセージを見て「おんや」と思った。

このウィンドウのタイトルバーとメッセージの表現が....。

タイトルバー 更新プログラムをインストールしています
メッセージ 更新プログラムがインストールされています

どうも違和感がある。能動態と受動態を混在して使っている。
Windowsは日本語環境でしか使ったことがないので英語のメッセージを実際に見たことはないが、どうも原文は次のようだ。

タイトルバー Installing Updates
メッセージ The updates are being downloaded and installed

確かに、これらの直訳であれば、上のウィンドウのような表現になってしまうだろう。しかし、もし、私が訳すとしたら両方とも「更新プログラムをインストールしています」にする。

私の尊敬する人から教えられた翻訳の極意に「受動態を多用するな」というお言葉がある。もともと、技術的文章において日本は受動態を使う習慣があまりない。(勿論、「技術を教えてもらう」といった明らかに受動態を使う場合もある。) 大体の場合、主語は「私もしくは人」として表現する。一方、英語(や欧米の言葉)では受動態を使う事が多い。日本語の方が表現力が豊かだ、などと言う人がいるが、人称格の扱いに関しては欧米の言語の方が表現が豊かであり、フランス語の様に「物」一つ一つについて女性名詞、男性名詞の区別があったりもする。つまり「物」が主語になることを前提となっているため、受動態表現が多くなるらしい。

それで英語を日本語に訳すときに、何も考えず訳す(もしくは直訳する)と「〜が〜される」という日本語が多くなってしまう。しかし「〜を〜する」と訳す方が日本語としては馴染むことが多い。私も人様の目に付く翻訳をする時にその様に心がけている。

さて、Windows XP SP3の更新ウィンドウだが、タイトルバーは動名詞なので素直に訳しても「更新プログラムをインストールしています」だろう。メッセージ本体はタイトルバーがなければ受動態形式でも最近の荒廃した日本語になれた現代人であれば違和感を感じないだろうが、能動態表現のタイトルバーがあるのであれば、こちらも能動態で表してウィンドウ全体で文言を統一したいところだ。

マイクロソフトは立派な大企業だから社内の翻訳基準を持っているに違いないが、(マイクロソフトに限らず)多くの外資系企業の場合、余り「意訳」をしないようにしているケースが多い様だ。そのため、ソフトウェアのメッセージやマニュアルは受動態だらけになってしまう。(裏の事情では翻訳の下請け会社や孫請け会社が、結局、学生アルバイトを多用して人海戦術で訳すから怪しい日本語が多くなる。)しかし、Linuxのようなコミュニティやボランティアが訳すのはないので、表現の仕方まできちんとローカライズして欲しいものである。

ところで、メッセージ本体を正確に直訳するのであれば「更新プログラムがダウンロードされ、インストールされいます」にならくては。(それだったら益々「更新プログラムをダウンロードし、インストールしています」の方が自然だが。)

などと、こんなところに拘る人間も少ないので、経済原理優先で益々日本語の荒廃が加速することになるのだろうか。

別のマシンを更新してみたら

別のXP SP2のマシンにインストールしてみたら、今度は次のようなウィンドウが出た。

今度はメッセージが違う。「更新プログラムのダウンロードとインストールを実行中です」こちらの方が原文に忠実だ。同じXP Professional SP2をアップグレードしたのに。そう言えば、1台目のインストールの時、途中でUpdaterが止まって3時間位放置したが、先へ進む気配がなかったため一旦キャンセルして再度アップデートした。そのため既にダウンロードは終わっていて、インストールだけだったのでメッセージが異なったのかも知れない。
しかし、一方は「更新プログラムがインストールされています」で、もう一方は「更新プログラムのダウンロードとインストールを実行中です」と殆ど同じ内容にもかかわらず文体が異なる。違う人間が翻訳したのかも知れない。

ちなみに能動態を使っているという点では後者(「更新プログラムのダウンロードとインストールを実行中です」)の方が日本語としては前者より自然だが、ここにも翻訳でよくやってしまう落とし穴(?)がある。英語の文章を訳すと「〜実行する」とか「〜行なう」という表現になりがちである。なんで素直に「〜する」としないのだろう。動詞(この場合「インストールする」)を一旦名詞(「インストール」)に置き換えて目的語にしてしまう。多くの場合、原文では動詞のことが多い。(この場合もdowloadもinstallも現在進行形の動詞である。)これは、多分、ネイティブレベルでないと頭の中で英語から日本語に言葉を再構成する際に単語単位で考えながら並び替えるので、翻訳作業の流れとして最後に「をする」とつけてしまうのだろう。

おれって細か過ぎるか?